＜今日のトレード＞
ノートレ日
【今日のノート：ジェシー・リバモア 孤高の天才，そして落伍者】
伝説の投資家シリーズ第２回は，１９２９年の大恐慌時代を生きた孤高の天才ジェシー・リバモアです。
マサチューセッツ州の貧農出身だったリバモアは，数学の得意な少年だったそうですが，父親の方針で１４歳の時に学校をやめさせられ，高等教育を受けることができませんでした（農業に学問はいらん！って，日本だけにおなじみの光景ではないんですね）。
母親からもらった５ドルを手に，ボストンにある株の仲買店で株価をボードに書き込む仕事をもらいます。週給６ドルだったそうです。
昔の１４歳は大人だったんですね。
当時は株価情報を電信で受け取り，リバモアのようなチョークボーイが株価を板に書き込んでいました。この仕事をするなかで，リバモアは株式取引についての情報や理論を吸収していきます。ノートに株価の値動きを細かく記録もしていたそうです。そうするうちに，株価の変動の中の規則性があるらしいことや，人の予想と現実の数字がめったに一致しないことに気づき始めます（テスタさんもうり坊さんも，野球の大谷選手もノート（記録）をマメにつけるという共通点があるなぁ）。
そして１９２９年の株価の大暴落の際，壮大な空売りを仕掛けていたリバモアは巨額の富と名声を手に入れました。
以前の記事で紹介した「マネーショート」のようなことは，この時代にもあったのですね。
リバモアの人生は，孤高と成功と離婚と破産で彩られています。
ボクが特に印象深かったのは，孤高という点でした。
彼は決して人と組んで株取引をすることはしませんでした。１回だけ組んだ時は，破産しています。
人と組まないだけでなく，株に関する情報を人がリバモアの耳に入れようとするのを非常に嫌がったといいます。
これってその後の著名投資家やタレブなんかにも共通してるんですよね。ウォール街というのはよほどお金を持っている人間に洪水のような情報が流れてくるところらしい。
孤高の天才は，株取引に関するいくつもの金言を残しました。
株価が変動する姿のみに意識を集中せよ。変動の理由に気を取られるな。
タレブが「講釈」と呼ぶものへの警戒です。
相場で傷を負いたくなかったら，事実，現実，論理から1ミリたりとも離れないことだ。好ましくない結果が生じたとすれば，市場が間違ったわけではない，トレーダーが間違いを犯したからだ。
1960年代にようやく注目されるようになる効率的市場仮説を先取りしているようにも見えます。
相場に勝つ必要はありません。勝たなければならない相手は私自身，自分の中の感情の起伏です。
耳が痛すぎて・・・。
リバモアは生涯に４度破産し，その都度全財産を失っています。
１度や２度じゃないところがすごい。
すべてを失うことは彼にとって重要な学習機会と受け止められていたようで，４度のうち３度の破産の後は，失った富の数十倍，数百倍の利益を得て復活を遂げています。
しかし，やはり孤高の天才も生身の人間でした（当たり前ですが）。
一年３６５日相場をやろうなどとこんりんざい思わないこと。人間の頭や精神はそれほどタフじゃない。
１９４０年１１月。ニューヨークのホテルの一室でリバモアはピストルで自分を撃ち，死亡します。４度の破産，4度の結婚をしていますが，4度目の妻のハリエットも4度目の結婚だったそうで，しかもこの女性，過去の３人の夫が全員自殺を遂げているというのですが，どーなってるんだ，これは。人を破滅に追いやる天才みたいな女性がいたんだろうか。
６３歳でした。「私は落伍者だ」と，遺書には書かれていたそうです。
破産してしばらく後の出来事だったそうですが，破産のほかにも家族の問題などが重なった末のことのようです。
リバモアは大恐慌をあらかじめ読み切って，壮大な空売りで巨万の富を得ました。
そしてその都度破産しました。
結婚生活でも，成功と失敗を繰り返しています。
「彼のような人生は幸せなのだろうか」などと問うのは，心理学者に任せておきましょう（幸福感の研究では，超巨大企業のオーナーと，その企業の底辺で働く社員の幸福度は，ほんのちょっとしか違わない）。
ジェットコースターに乗らずにはいられない。
そんな天才が，ときどき現れるのでしょう。
レールの一番高いところに自分が乗った車体がゆっくりと到達し，落下を始める直前の一瞬の静けさ。
「これからすべての株価が見たこともないほど急落するぞ」と思いながら空売りを仕掛けるリバモアは，その静かな瞬間をどう感じていたのでしょうか。
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